message 「庭のイメージ」編  … 噴水
一級建築士・インテリアデザイナー・ガーデンデザイナーの庭づくり講座/ガーデニングデザインメッセージ集


 西洋庭園にあって、日本庭園にないもの。



 噴水。

 西洋庭園の噴水と言われると、そういえば、と思い出す庭はたくさんありますね。ヴェルサイユ宮殿の庭、パリのポンピドーセンターの庭、イタリアのチボリ・エステ荘庭園、スイスのレマン湖の噴水。(思い出すと言っても真ん中の二つしか行ったことがありませんが) アメリカのダラスの10年以上前に行ったときには、ファウンテンプレイスを見て、オフィスビルの足元の庭にこれは……と、なかなか刺激的でした。


 西洋では噴水の歴史はとんでもなく古いものだそうです。ギリシャ時代にはもう既に庭園を飾っていたのです。古代ローマ時代には水道の発展とともに噴水も盛んに作られたそうです。

 ポンプのない時代になぜ噴水が。

 簡単なことですね。サイホンの原理。地形的に高い位置にある池などからパイプを通して吹き上げさせる、だけのこと。ポンプが発明されてからは、地形的な制約がなくなり、西洋の庭には必ずといっていいほど噴水が作られるようになったのです。




チボリのエステ荘庭園

 ここは行ったことがあるので、私にも少し解説する資格があるでしょう。

 ローマの東方の避暑地に、貴族が建てた別荘の庭。16世紀のことでした。

 既に相当の部分が改変されているとはいえ、さすが、水の名園といわれているだけのことはあって、さまざまな多くの噴水やカスケードや滝が設えられています。迫力があります。ふんだんに水を使い、半端ではない仕掛けがいたるところにあります。

 有名なのは、エペソスのディアナの噴水。神話の女神ですが、十個ほどのおっぱいの先から水がほとばしり出ている立像ですね。それから、滝の裏側の回廊。みんなが記念写真を撮るスポットです。百噴水といって、プロムナードにずらっとライオンの首が出ていて水がほとばしり出て……。


 そういった名前が付いている水の仕掛けだけでなく、それこそ、何でこんなところにまで、というくらい、ちまちました仕掛けもたくさんあります。回廊の手すりにぽつぽつと飾りがあって、その側面から細い噴水が、なんてね。

 ああいう庭は日本では見られませんよね。16世紀といえば日本では何が作られましたかね。




 水が吹き上げるということ

 水は高きから低きに流れるのが自然ですから、天高く水を吹き上げるのはとても刺激的だったことでしょう。人々を驚かせ、楽しませる仕掛けだったのでしょう。
(そういやハワイのカウアイ島で潮吹き岩まで観光バスで連れて行かれたなあ)
 豪勢な遊びなのです。

 ですから大げさであれば大げさなほどいい。巨大な池を作って、海戦のまねごと遊びをしながら、大きな噴水を上げる。それがステイタスでもあったのでしょう。


 一方、日本ではどうだったのでしょう。寝殿造りの宮殿、禅宗寺院と枯山水……。それほど巨大な庭はありませんでしたし、大掛かりな水の仕掛けはありませんでした。しかし、やはり水は庭には欠かせないものでした。でも、それはせいぜい小さな池かせせらぎというほどの流れでした。場合によっては、砂を敷いて滝から流れ落ちた水の動き(滝から川になって海に至る!)を表すという、思い切り想像力を逞しくして心で楽しむという、繊細さの庭でした。

 噴水といえるようなものはありませんでした。しいて言うなら、竜の口からちょろちょろ落ちる水くらいでしょうか。ほかに思いつく水の仕掛けといえば、手水鉢、ししおどし、水きん窟……。




 この違いは

 日本のように地形に富み、水の流れの豊かな国でなぜもっと大胆に水を楽しまなかったのでしょう。

 日本は農業国だから、水を大切にしていたから?

 自然の微かな変化に気付くことを喜びとする感受性豊かな民族だから?

 洪水や台風や地震など、自然のスペクタクルに慣れていて噴水ごときに刺激を受けなかったから?

 単にそんな技術的発想がなかったから?




 理屈をこねるのなら、この辺りから答えらしきものをひねくりだせるでしょうが、どれも違うようですね。

 答えは……、なんて知りませんよ。学者じゃないですから。でも、言えるかもしれないのは、神話の違いに表される文化的発想の違いかもしれません。ギリシャ神話に海にまつわる神がたくさん登場しますよね。(ぜんぜん詳しくないけど)
 躍動する海神とそれを象徴する水の仕掛け。西洋の庭には神話の主人公の彫像がつき物ですね。


                 * *


 民族の数だけ文化がある。言葉の違いや宗教の違い、風習の違い。

 思えば、そういったものが庭にも如実に現れています。庭は文化の表現そのものです。


 それぞれの民族が作り上げてきた伝統のひとつである庭づくりの根底にある、歴史的な、文化的な、宗教的な背景もできれば理解して、外国の庭は見たいものですね。私自身の反省です。旅行に行くときは、少しは勉強してからいくのですが、なかなか……。数千年の歴史を、エッセンスではあれ、にわか勉強ではなあ。





 こんなことをお話したからといって、日本人だから日本庭園を、なんて言う気はさらさらありません、念のため。





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