message 「庭のイメージ」編 … エイジング | |||||
一級建築士・インテリアデザイナー・ガーデンデザイナーの庭づくり講座/ガーデニングデザインメッセージ集 | |||||
だいぶ前に一旦終了した英国風景庭園ミステリーシリーズ、覚えておいでですか。 あの中に、ヴィトスン伯爵が、村人たちを立ち退かせ、その村の後を廃墟として演出したことを書きました。イギリス庭園におけるピクチャレスクな景観の中で、よく取り入れられたものが廃墟です。ピクチャレスクとは文字通り絵のように美しいということですが、イギリス庭園を語るときには、実は含みのある言葉で、破調、荒廃、無限なるものに魅力を見出すという感覚があるそうです。 そういった情感の演出装置が廃墟。意識的に廃墟が作られたわけです。 (さきの英国風景庭園ミステリーでは廃墟に精霊の遣い手である老婆を絡ませたのでした) 廃墟の美。 人の手で作られたものでありながら、何らかの理由で棄てられ、崩れ落ち、朽ち果てるに任せられ、誰にも省みられず、風雨に晒されているもの。そこに人は、人の手のはかなさを感じ、自然の力の永遠さを感じ、留まることのないゆっくりとした時間の経過に涙するということですね。 パリにしろ、イギリスの小さな農村にしろ、有名なお屋敷と庭園にしろ、ヨーロッパで見る石造りの建物の古色に、旅情を感じます。 古色が好きなのはイギリスの人だけではなく、私たちはみんなそうなのです。日本の庭園も古色にあふれています。苔むした石、年輪の浮き出た木造建築、荒れた肌をした土塀、老木となった赤松と降り積もった松葉。そして庭のいたるところに、塀や敷石や垣根や手水鉢に、時代を経てきたことによるしみのような汚れがついています。それは汚れではなく、名園と呼ばれる庭になくてはならない、自然の「演出」なのです。 そしてそれらが建物の時代性とあいまって、落ち着いた空間に精神的な静けさをかもし出し、その庭独特の空気を漂わせることによって、私たち感覚を覚醒させ、心を、その庭が見てきた過去の出来事にいざなうのです。 ですから、私たちの庭は、造ったばかりでは、いくらがんばってもそういった境地になりようがありません。 ちょっと話が違うかもしれませんが、9月11日のテロの標的になったニューヨーク・ワールドトレードセンタの跡地が公園として整備される話があるそうです。 まだ生々しく覚えているあのシーンがあるからこそ、その公園は追悼とテロを許さない気持ちが表現された公園として認知されることになるでしょう。数百年単位でもっと時代が下ったときにも、訪れた人たちが同じ気持ちになるような仕掛けがされることでしょう。 阪神大震災の後作られた各地の住宅地や公園や施設に、瓦礫の一部がモニュメントとして残されました。震災を語り継ぐ証人としてです。私たちはそこに存在し続ける「物」を通して、時間、時代、過去、永遠、を感じるのではないでしょうか。 * * 話がだいぶそれてしまいました。 庭に「古色」を求める人はたくさんいます。 造ったばかりの庭ではなんだかどれもピカピカして、つまらないと思う人ですね。 そういった需要に応えて、エイジング加工されたものがたくさん出回っています。人工的に古色をつけたもの。わざわざ傷をつけたり薬品処理をされたもの。レンガや木製のテーブルや金属製の鉢置き台。(エイジング加工は店舗内装なんかでもよくあることです) そんなものは偽物だ、なんていうことではなく、演出だと割り切って上手に使うのはいいことだと思います。(どうせすぐに古びます) エイジングとアンチークは違いますよ。 エイジングとは時代がのっているということですし、アンチークは旧式のとか、古いデザインのという意味です。 エイジングはその様子をいうのであり、アンチークはその形のデザインをいうものです。商品の中に、明らかに混同して宣伝しているものがありますね。 まあ、目くじらを立てるほどのことではありませんが、言葉を並べただけの上滑りな宣伝文句に嫌気がします。 でも、エイジングさせなくてはと、それほど力んで考えなくても、いずれふと気が付くと、あなたの庭も時代がのった雰囲気のいい庭になります。 日本は高温多湿。 たちまち草木は育ち、苔が広がり、庭のいたるところに有機質が充満します。木製のものはすぐに褪色します。それを「汚れてしまった」と思わずに、「風情が出てきた」と考えて、上手にコントロールしましょう。 (日が当たる方だけ色褪せた木のベンチは、全体がまんべんなく色褪せるよう時々向きを変えましょう) 当然、何でも古くなればいいわけではないので、以前お話した「素材感」が重要になってくるのです。木でもスチールでもコンクリートでも、それぞれ味のある古色を帯びてきますが、だめなものは、木に見せかけたアルミパイプ、陶器に見せかけたプラスティックなどですね。 |
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