| 実践編 気持のいい家 |
栗ご飯の次は「むかごごはん」だ！
むかご（国語辞典によれば山芋の腋芽）なんて、ふと気がつくと、最近トンと食べたことない。以前は、なんとなく身の回りにあって、摘んだその場で口に放り込んだりしていたものだが。先日、京都加茂の浄瑠璃寺の庭を見に行ったとき、門前の無人野菜販売所に袋に入れて吊るされてあるのを見つけた。１００円で茶碗半分くらい。懐かしく思って衝動買いし、バター炒めと「むかごご飯」にした。
何とはなしに豊かな気分。
○
ある造園家とランドスケープアーキテクトと晩飯を食いながら話をしたときのこと。造園家が、先週、タイのバンコクに行ったときのことを話してくれた。
「なんとも言えず豊かさを感じるんだよな。家のひさしが深くて、その下が本当にひとつの部屋といえるくらいに広くてね。家の内と外の境界領域をどううまく作るかが、住まい作りのポイントの一つということは、今までも何度も何度も言われているけど、日本の家はいまいちだよね。僕が行ったそのバンコクの家は、いわゆるサッシなんてものはなくてね、ガラスも嵌っていないんだよ。風がさーっと抜けていってね。庭も建物もたいしたものじゃないんだけど、なんともいえず気持いいんだよ」
わかるよね、そういう気持ちよさ。
「ひさしが深いから家の中は暗いんだ。気温は三十数度あるんで、暑いはずなんだけど、それほど暑さも感じないんだ。ネクタイ締めて、ということではだめだけど、ゆったり構えてるとね。気持がほぐれていくようなんだ」
思い出した。田舎の親戚の家の情景。昔、夏の暑いさなか。座敷の奥に座って、庭を見ていた。庭は強い陽に照らされて土も乾ききっているけど、深いひさしのそのまだ奥は薄暗く、なぜかひんやりとしていたな。
「クーラーなんてもちろんない。ところがさ、そういう気持のいい家があるかと思えば、クーラー完備の「高級住宅」もあるんだ。窓を閉め切ってね。どっちが気持がいいんだ？ どっちが「高級」なんだ？ 暮らしの豊かさっていうのは、金をかけた建物や金をかけた庭があるから感じるもんじゃなくて、暮らし方だと
思うんだがな」
彼のこの話には省略した部分がたくさんある。でも、わかるよね。そのとおり！
「そもそもね。庭を見ればその人の、そういう豊かさっていうのは感じるものだよ。つまり暮らしの豊かさはね」
それもそのとおり！ 庭は人柄を表すともいうけど、ドロアシ流の言い方をすれば、庭を見ればその人の庭での楽しみ方が見えて、結果としてその人の住まいに対する考え方がわかるということになる。住まいが「巣」であるなら、それをニワシドリのようにメスの気を引くために設えるのではなく、自分の居場所としていかに気持ちよく設えるかということだな。
家の話に戻るけど、ひさしの深いクーラーのない広い座敷を持った家はよくて、高断熱でエアコンがあってこそ意味を成すような家は悪いといっているのではない。都心部での狭小宅地で、深いひさしを作るよりも床面積を広げなきゃという条件もあるだろうし、他人の視線が気になって開放的に暮らすなんてできないってこともあるだろう。あるいは、雪の積もる地域で夏より冬の心配をしなくちゃという場合も別の話。だが、田舎で、周りを林に囲まれていて、田んぼや小川の上を渡ってくる気持のいい風が吹いていて、敷地も広くてゆとりがあって、というときに、高断熱高性能、というプレハブの家はないだろう、と思うのだ。
お、そうだ。いつか、「性能」と「品質」の話をしよう。
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